2025年(令和7年)6月11日に、不正行為に対して通報者が安心して通報ができ、企業等の事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る、公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)が公布されました。公布から1年6カ月以内に施行される予定です。
今回の法改正では、公益通報者の保護がより一層手厚くなされるとともに、フリーランスも公益通報者として保護の対象となりました。本記事では、改正の概要と公益通報のルールの概要を紹介するとともに、フリーランスにどのような影響があるのかを解説します。
Contents
公益通報者保護法とは?
法改正以前の「公益通報」とは、「企業等の事業者による一定の違法行為を、労働者(パートタイム労働者、派遣労働者や取引先の労働者、公務員)、退職後1年以内の退職者・役員が、不正の目的でなく、組織内の通報窓口、権限を有する行政機関や報道機関等に通報すること」を指します。
公益通報を行った「公益通報者」に対して、事業者が「不利益な取扱い(解雇、降格、減給、退職金の不支給等)」を行うことは禁止されています。もし事業者が、公益通報をしたことを理由として労働者を解雇した場合、その解雇は無効となります。また、事業者は、公益通報によって損害を受けたとして、公益通報者に対して損害賠償を請求することはできません。
そして、「公益通報者保護法(公通法)」は、交易通報者が公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、「どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのか」という制度的なルールを明確にするものです。
※参照:公益通報者保護制度 | 消費者庁
公益通報者保護法を改正する目的や背景とは?
目的・背景・実施時期は?
これまでの公益通報保護法の下では、内部通報制度があまり使われていないという現状や、諸外国の動向を踏まえて、制度を高度化させる必要があるとの問題提起がなされました。
内部通報制度があまり使われていない背景には、内部通報制度を「導入している」と回答した事業者の30.0%が、内部通報窓口の年間受付件数を「0件」と回答していたことが挙げられます(※)。
※参照:令和6年12月27日付け「公益通報者保護制度検討会報告書ー制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けてー」5頁
また、諸外国の動向の具体例としては、OECD贈賄作業部会の第4期対日審査報告書や国連ビジネスと人権の作業部会の訪日調査報告書において、通報者保護の強化が求められたことが挙げられます(※)。
※参照:令和6年12月27日付け「公益通報者保護制度検討会報告書ー制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けてー」6頁
そこで、令和7年から公益通報者保護法が改正され、さらなる公益通報の保護の徹底が図られることとなりました。改正公益通報者保護法は令和7年6月11日から1年6カ月以内に施行される予定ですので、2026年(令和8年)中には施行されることになります。
2025年・公益通報者保護法の改正点をわかりやすく解説
新しくなった公益通報者保護法の改正点は、以下のとおりです。
- 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
- 公益通報者の範囲拡大
- 公益通報を阻害する要因への対処
- 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化
それぞれ詳しく確認してみましょう。
1. 事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上

現在、公益通報者保護法上の罰則の対象は、通報者を特定させる情報を漏洩した場合に発生する公益通報対応業務に関する情報漏洩(改正前公益通報者保護法21条)と、消費者庁から報告を求められても報告をしない、または虚偽の報告をした場合(同22条)に限定されていました。
今回の法改正では、刑事罰の範囲が拡大され、消費者庁からの勧告に従わなかった事業者に対して出される命令に違反した場合も、刑事罰として30万円以下の罰金の対象とされることとなりました(改正法15条の2、同21条)。ただし、この場合は労働者数が常に300人を超える事業者に限られます。
また、従来、消費者庁は事業者に対して報告を求めることのほか、助言・指導・勧告をすることができるとされていましたが(改正前公益通報者保護法15条)、今回の法改正ではより強い権限を行使でき、立入検査を行うことも可能になりました(改正法16条)。検査拒否は30万円以下の罰金が課される刑事罰の対象となります(改正法21条・同23条)。
さらに、今回の法改正では、雇用主(会社)が労働者等に対して、雇用主(会社)がどのような公益通報対応体制を取っているのかを周知する義務が明記されました(改正法11条2項)。
2. 公益通報者の範囲拡大

公益通報を行うことができるのは、「過去1年以内に事業所に所属していた労働者や派遣労働者、役員」に限られていましたが、今回の法改正では、「フリーランスとして業務委託を受けた人」も含まれることになります(改正法2条1項3号)。
この場合のフリーランスとは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第2条第2項の「特定受託業務従事者」が条文上の適用対象とされています。つまり、特定受託業務従事者には、業務委託の相手方である事業者のうち個人であって従業員を使用しないもの(同条1項1号)、あるいは一人会社の代表者(同条同項2号)が当たります。
上記に該当するフリーランスが公益通報を行った場合に、公益通報を理由として業務委託の解除や取引の数量の削減、取引停止、報酬減額等不利益な取扱いをしてはならないこととなります(改正法5条)。
3. 公益通報を阻害する要因への対処

今回の法改正では、正当な理由がないにも関わらず、公益通報をしない旨の合意をすることを求める等の行為が禁止され、これに違反してなされた合意は無効となることが明記されました(改正法11条の2)。
また、従来は通報された側が通報者を探索する行為に対して、公益通報者保護法上は禁止することを明文で規定をされておらず、内閣府の定めた法定指針(公益通報者保護法11条4項)において「事業者がとるべき措置」として定められていたにすぎませんでした。
今回の法改正では、公益通報者保護法の中で、事業者が通報者を探索する行為が明確に禁止されています(改正法11条の3)。
これにより、いわゆる3号通報「雇用主(会社)や行政機関等以外への外部通報先への公益通報(公益通報者保護法3条3号・6条3号)」について、通報者の探索行為が違法となるかの解釈論争に終止符が打たれたことになります。
外部通報の保護要件を緩和することによって、これまで外部通報とされてきたフリーランスからの通報を、内部通報として適切に対応した方が企業価値の低下を防ぐことができます。内部通報対応の活性化を促進することにもなるでしょう(※)。
※参照:山本隆司ほか『解説 改正公益通報者保護法〔第2版〕』(令和5年2月、弘文堂)171頁
4. 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化

現在は、公益通報をした労働者が解雇され、または懲戒を受けた場合に、その無効等を争おうとしても、会社側は解雇・懲戒の理由として公益通報とは別の事情を主張する場合が多く見られます。
公益通報をした労働者は民事訴訟においてさまざまな間接事実をもとに無効等の主張を展開する必要に迫られるため、結果として労働者等が公益通報を躊躇する要因のひとつとなっていました(※)。
※参照:令和6年12月27日付け「公益通報者保護制度検討会報告書ー制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けてー」25頁
今回の法改正では、通報後1年以内に解雇または懲戒が行われた場合、公益通報を理由としてされたものと推定され、立証責任が転換されることになります(改正法3条3項)。
そのため、通報後1年以内の解雇または懲戒については、会社側が、公益通報ではなく別の理由によるものであること(加えて、その理由自体が解雇または懲戒に足りる相当なものであること)を立証しなければならないことになりました。これにより、労働者側の立証の負担を軽減し、公益通報のハードルを下げることができます。
さらに、公益通報を理由として解雇または懲戒をした者については、6月以下の拘禁刑または30間年以下の罰金が科され、法人については3,000万円以下の罰金に処せられます(改正法21条、23条)。
公益通報を行った労働者を雇用主が解雇や懲戒とするのには、非常に重い罰則が科されるため、大きなリスクを伴うことになりました。
公益通報者保護法の改正がフリーランス・個人事業主へ及ぼす影響は?
公益通報の保護対象者になったフリーランスにはどのような影響があるのか、詳しくご紹介します。
フリーランスも公益通報者として保護されることに
フリーランスが発注元企業の不正を知った場合、あるいは発注元企業からの依頼を断りきれずに違法行為に加担してしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
今回の法改正前までは、フリーランスは公益通報の主体に含まれておらず、労働者と比較した場合、弱い立場に立たされている状況でした。
フリーランスは独立した当事者ですので、発注元企業からの違法な依頼をお願いされたとしても、自ら行った違法行為として民事または刑事上の責任を自ら負うことになります。フリーランスは、依頼を拒否することで生活の糧である収入源が断たれるリスクも考えながら、対処方法を検討する不利な状況にありました。
令和7年の法改正により、フリーランスも公益通報をなし得る主体に含まれることになったため、法令違反を通報しても、一定の場合には保護されることになります。
フリーランスが公益通報を適切に行った場合、そのことを理由として業務委託の解除や取引の数量の削減、取引停止、報酬減額等の不利益な取扱いをしてはならないことが明文化されています(改正法5条)。
また、発注元企業がフリーランスに対して公益通報をしない旨の合意をすることを求めたり、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げてはならず、これに反してなされた合意は無効となります(改正法11条の2)。
これまで見て見ぬふりをしてしまっていた、あるいは泣き寝入りしてきた発注元企業の違法行為に対して、公益通報を選択肢として検討できるでしょう。
どのような通報でも保護されるわけではない
今回の法改正で、フリーランスが公益通報を行う主体となり、公益通報者の保護が手厚く規定されるようになりましたが、公益通報に当たらない場合や保護されない通報を外部に対して行ってしまうと、名誉毀損等により民事・刑事上の責任を負う可能性があります。
フリーランスは、公益通報として保護されない場合がどのような場合なのか事前に確認しておく必要があるでしょう。
公益通報とは? フリーランスが公益通報を行う場合
不利益取扱いの禁止
今回の法改正では、フリーランスが公益通報を行ったことを理由として、業務委託の解除や取引の数量の削減、取引停止、報酬減額等の不利益な取扱いをしてはならないこととされました(改正法5条)。しかし、全ての公益通報が認められるわけではありませんので、どのような内容が保護の対象となるか確認しておきましょう。
保護される公益通報とは
公益通報者保護法は条文の仕組みについて、「公益通報に当たるか」「通報の対象者に該当するか」という順に検討する必要があります。
- 公益通報に当たるか
- 通報の対象者に該当するか
1. 公益通報に当たるか
公益通報とは、労働者・退職者・役員が、役務提供先の不正行為を、不正の目的でなく、一定の通報先に通報することをいいます。
公益通報者保護法に関するQ&A(基本的事項) | 消費者庁
どのような違反を通報する場合が公益通報と言えるのかについては、改正公益通報者保護法で明記されています。
公益通報者保護法2条3項に定めがあり、全ての法律が対象となっているわけではありません。公益通報として保護されるのは、公益通報者保護法に違反する場合、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律に違反する場合で、罰則や過料が定められるものに限られます。つまり、生命や財産に関わる違法行為に対して刑罰化できるものに限られるということになります。
また、このような違反があれば必ず公益通報に当たるわけではなく、通報者が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって通報を行う場合は、「公益通報」には当たりません。フリーランスが自らの報酬額を引き上げる目的で通報する等は不正の目的に当たり得ます。
ただし、不正の目的があるか否かは、事業者(フリーランスの場合は委託事業者)が負っています。不正の目的をもって通報を行ったことが立証されてしまうと、公益通報あるいは公益通報者として保護されず、場合によっては名誉毀損として民事・刑事上の責任を問われる可能性があります。
2. 通報の対象者に該当するか
公益通報の対象者については、3条1項各号の中で「1号通報」「2号通報」「3号通報」と大きく別れており、それぞれについて紹介します。
- 1号通報:内部通報(事業者内部への通報)
- 2号通報:行政通報(行政機関あるいは行政機関があらかじめ定めた者への通報)
- 3号通報:外部通報(被害の拡大を防止するために必要と認められる者への通報)
1号通報とは?
1号通報は、いわゆる「内部通報」のことを指し、事業者内部への通報です。会社の従業員(労働者)であれば、会社の通報窓口に通報するのが典型例ですが、フリーランスであれば、発注元企業の通報窓口に通報する場合に1号通報として認められます。
通報者のメリットとしては、匿名であっても保護の対象となることです。また、事業者も通報の内容が外部に漏れることで企業価値が毀損されるおそれがないというメリットがあります。
2号通報とは?
2号通報はいわゆる「行政通報」で、通報対象事実について処分・勧告等をする権限を有する行政機関あるいは行政機関があらかじめ定めた者への通報です。行政機関とは、医師法違反については都道府県警察補文や各都道府県庁、厚生労働省等が挙げられます。
この場合外部への通報に位置付けられるため、匿名での通報は認められていません。公益通報保護法上の保護が認められるには、通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合または若しくはまさに生じようとしていると思料する場合で、一定の事項(氏名、住所、通報内容、通報理由)を記載した書面を提出することが必要です。
電子的方法も可能で、具体的にどの行政機関が通報先となるのかは、消費者庁がデータベース化していますので、2号通報(行政通報)を検討される方は、事前に確認しておきましょう。
3号通報とは?
3号通報は、いわゆる「外部通報」で、通報対象事実の発生またはその被害の拡大を防止するために必要と認められる者への通報です。企業の情報等が外部に持ち込まれることになり、企業価値が毀損され得るため、1号通報や2号通報よりも保護される場面がより細かく限定されています。
具体的には、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があることを前提に以下のような場合が想定されています。
- 公益通報をすることで不利益取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
- 公益通報をすることで証拠隠滅・偽造・変造のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
- 公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
- 役務提供先から公益通報をしないことを正当な理由がなく要求された場合、(ホ)書面で1号通報(内部通報を行ったが20日間返答がなく、正当な理由もなく調査が行われない場合
- 個人の生命・身体に対する危害、個人の財産に対する損害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合に保護の対象となります。
1号通報、2号通報、3号通報のメリデメ
1号通報、2号通報、3号通報のそれぞれにメリット・デメリットがあります。
1号通報(内部通報)は通報の事実を握りつぶされる危険性があること、2号通報(行政通報)は匿名では行えないこと、3号通報(外部通報)は認められる要件がやや厳格です。いずれも名誉毀損と隣り合わせであること等、それぞれの特色等を踏まえて検討すべきでしょう。
このように「1. 公益通報」に当たり、「2. 各対象の窓口(1号通報、2号通報、3号通報)」に当たる場合に、そのような公益通報をしたフリーランスに対する、公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いは禁止されます(改正法5条)。
保護されるための要件が1号通報、2号通報、3号通報でそれぞれ異なるため、フリーランスの皆さんは、自らの置かれた立場や予測される相手方の対応等を意識しながら、どの窓口の公益通報が妥当かを検討するとよいでしょう。
別の理由に基づく契約解除等は認められる
上記のとおり、保護される公益通報に当たる場合、フリーランスは公益通報を行ったことを理由として、業務委託の解除や取引の数量の削減、取引停止、報酬減額等の不利益な取扱いから保護されます(改正法5条)。
具体的なフリーランスの動きとしては、公益通報を行った後に発注元が報酬減額や取引停止をしてきた場合、フリーランスは、継続的取引として解除無効を主張しつつ当初の報酬相当額の支払請求をする、場合によっては民事訴訟を提起する等の対応をすることが考えられます。
もっとも、改正法によっても、成果物の提出がない等の公益通報とは別の理由による不利益取扱いは、事業者側に有利となります。公益通報をする・しないに関わらず、フリーランスの皆さんは適切なパフォーマンスを継続し、かつ、その証拠をしっかりと残しておく必要があるでしょう。
フリーランスの場合、労働者と異なり、公益通報後1年以内の不利益取扱いについて、公益通報を理由とするものと推定される規定(改正法3条3項)がありませんが、フリーランスが適切なパフォーマンスを継続しており、その証拠も揃っている場合に、公益通報後1年以内に不利益取扱いがなされれば、裁判所により、公益通報を理由とする不利益取扱いと認定される可能性は高いと考えられます。
まとめ
本記事では、令和7年公益通報者保護法の改正の概要と、この法改正がフリーランスに及ぼす影響を紹介しました。今回の法改正により、公益通報者の保護がより一層手厚くなり、また、フリーランスも公益通報者として保護され得ることとなります。
どのような通報が公益通報として保護されるのか、また、どのような内容の保護がなされるのかをチェックして、違法行為を発見した場合には、違法行為に加担することなく、フリーランスの立場からの公益通報も可能であることを考慮して、対応を検討してはいかがでしょうか。
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