ファンとの関係性について

そういう意味では、もしかして連載の書籍化が一度中断してしまったのは、結果的に良かったのかもしれないですね。
はい。止まったときは「あれ、どうなったんだろう?」って思ってたんですけど、アイドルを辞めた直後だったので、経験を言葉にするのがめちゃくちゃ難しかったんですね。それが5年経って、ようやくフラットな視点で自分の感情や辛いことに振り回されず、客観的に過去のこととして書けるようになったのは、当時に比べると大きく変わりました。
特に、自分の精神状態を公表したり、パートナーとの関係を書けたことで、一歩踏み出せたような気もしますね。おかげで今は、表に出るときに自然な自分でいられるというか、人に見せたくない部分や弱さを持っていることを隠さずにいられるのが心地いいです。
アイドルって常に完璧な姿だったり、笑顔だけを見せないとダメだったりするから、どこかチグハグした感情のまま人前に立たなきゃいけなくて、その状態でメッセージを残していたのが、自分的には危険だなと思っているんですね。
でも、今の自分は「チグハグだな」という感情もひっくるめて、ありのまま、今のリアルな自分のメッセージを出せるので、メンタル的には無理なく安定していられるんです。
そこで伺いたいのが、和田さんのファンに対する思いなんです。アイドル現役時代は「この世の男たちは全員滅亡しろ」と思っていた、といった発言も本書にはありましたし、もしかしたらネガティブな感情をお持ちだったんだろうか?と想像していたら、まったく違いますよね。アイドルとしての完璧な姿という、ある意味“偽り”の自分を好きと言うファンに対する不信感や疑問はなかったんでしょうか?
私はアイドル時代から嫌なことは嫌とハッキリ言うタイプだったんですよ。アートにも政治にも興味があると公言していて、それを応援してくれたのがファンだったんですね。
もちろん百パーセント素のままの自分を見せられているわけではないけれど、いろんなところで私のメッセージを読んでくれたり、聞いてくれたり、垣間見せている本当の私も含めて愛してくれたという感覚がすごく強くて。それって本当のファンだと思うんですよ。

もちろん、単なる娯楽として楽しんでいるファン層もいるし、ただテレビで見ているだけの層もいる。どれが正しいとは自分からは言えないけれど、その中に本当の自分を見てくれているファンもいたから、その人たちのおかげという思いはあるんですね。
あと、私のいたグループはファンとの関係が割とフラットというか、ファンが10も20も年上の人たちが多かったので、やっぱりみんな大人だったんですよ。別に私たちを子ども扱いするわけではないけれど、例えば握手会だったりで塩対応をしても「疲れてるならいいよ」と声をかけてくれたり、良い関係が築けていたんです。私たちの素直な反応も1つの良さとして愛してくれていた。
そのへんはファンの年齢層や性別によっても違うでしょうから、どんなファンのあり方がいいとも言えないし、疑似恋愛的な感情を持って応援していたとしても否定するものじゃない。どういった楽しみ方でもいいけれど、まるまる愛してくれていた人たちとはいい関係だったなって思います。
では、精神状態だったりパートナーについて公表されたときも、そういったファンの方たちのリアクションは温かいものだったのでは?
無でしたね。何もなかった(笑)。今、やっているバンドのLOLOETが、ほぼ毎週末ライブをしているので、公表したときバンドメンバーは「お客さん来ないんじゃないか」と不安がっていたんですよ。だけど、みんな普通に来て、普通に話して帰っていったからびっくりしてました。
むしろ、女性のファンの方は喜んでましたね。男性に対しての嫌悪をマックスに抱いていたときの私も知っているから、あんなだったのに……!って。それは、すごく嬉しかったです(笑)。

特に同世代のファンだったりすると、私たちと一緒に人生のステージが変わっていって、久々に会うと「子供が生まれた」とかって報告を受けたりもするんです。そうやってお互いの変化を話せるのも、めちゃくちゃ楽しいし嬉しいですね。
そういった意味でもアイドルって素敵なお仕事で、だからこそ問題をスルーしてはいけないという意識も強いんでしょうね。
私は、自分のアイドル人生だったりそこでの出来事や経験を、ただ、みんなにシェアしたいんです。ひどい経験だったり、つらかったこともあるけれど、それってアイドルだけの問題ではなく、全部この社会につながっていることだから。
例えば、なぜアイドルがスカートしかはかないのかとか、どうして女性性を強調した仕草をするのかとか、なんで「可愛いだけじゃダメですか?」って歌う必要があるのかとか。そういったこともすべて、この社会の性役割とかジェンダー規範とかに深く結びついた上で、アイドルという表象が出来上がっているんですよね。
つまり、アイドルとして得た私の経験も、いろんな人の人生に交差するはずのものだから、そこで「私もこう思ってた!」って共感してもらったり、気づいてもらいたい。私の経験を活用してほしいんです。
特に活用してほしい経験や情報を挙げるなら?
心が苦しいときは、すぐに病院に行くことですね! それが一番有益な、活用できる情報です。私もメンタル不調を感じ始めた当初は、バレたらいけないと思って病院に行くことができなかったけれど、今、当時の自分に会えたら、すぐ行かせるし、活動も休ませていたでしょうね。もちろん誰かが休んだら、その負担はまた別のメンバーに行くけれど、休むこと自体は全然悪いことじゃない。
どういう人間になっていきたいのか?という過程の一部

休むことで悪化を防げますしね。ちなみに、女性アイドルは「スカートをはかなきゃいけない」とか「女性らしい仕草を求められる」というお話が先ほどありましたが、そんなに求められるイメージってピンポイントなんですか? 男性アイドルも求められる理想像はもちろんありますが、例えば可愛い系もあればオラオラ系もあったり、元気系、知性派、ツンデレとか、割と幅広くタイプがある気がするので。
もちろんバリエーションはありますし、私がいたグループではメンバーそれぞれの個性が尊重されてました。でも、周りを見ればそうではないグループがあったのも確かです。
社会に根付いている性役割とも関連してるんでしょうけど……女性アイドルの場合はバリエーションの前に、一様に未熟であることを求められたりするんですね。早々に上手くキャラ付けができない限り、基本的には未熟で、子どもらしくて、もう少し年齢が上がれば、清楚で……という要素が加わってきたりするから、そのへんは男性より幅は狭いかもしれないです。
昭和の時代は「女は馬鹿なほうが可愛い」なんて大っぴらに言われていましたから、そういった価値観から来ているものなのかもしれませんね。
あ、今でも全然アイドルは言われますよ。なんなんでしょうね? 知識をつけたり、自分の意見を持つことが良しとされないというか。一個人、1人の人間というよりも、漠然と想像される“未婚の女性”のイメージの中に、アイドルという1つの表象が含まれているんだなという感覚はあります。
もちろん今の時代はアイドルも個性を重視される時代になっているし、むしろ、そうしないと生き残れないと思うんですよ。だとしても、みんな大まかには清楚で、綺麗めで、常識外れなことはしないという規範の中からは飛び出さない範疇の個性だから、パッと見でわかるほどの差別化は難しいですよね。
たとえボーイッシュキャラみたいな子がいたとしても、実は会社からの指定でそうなっているだけで、本人がやりたいわけではなかったりするケースも見てきたし。
自分は何をやりたいのか?を見つけるという視点からすれば、それは完全に本末転倒でしかない。
というよりも、一番大事なのは“どんな人間になりたいのか?”じゃないかとは思っているんです。長い人生から見ると、アイドルでいられるのは本当に限られた期間で、その先の方がずっと長いわけじゃないですか。だからアイドルとしての活動も、長い目で見てどういう人間になっていきたいのか?という過程の一部に過ぎないんですよね。
アイドルに限らず、毎日ちゃんとお金を稼いでご飯を食べるという日々の暮らしを続けるうちに、自分がやりたいことを見失ってしまうことなんて珍しくない。アイドルだって毎日の仕事として続けていたら、何をやっているのかわからなくなっていくし、そもそも、どういう人間になりたいかなんて考える時間すらなくなっていく。だから、そういった時間を意識的に取らないといけないんです。
人って今が幸せでないと、過去のことに対して私みたいに繰り返しグチグチ言ったり、いつまでも悔やんだりする羽目になっちゃうじゃないですか。今を幸せにしたいのなら、自分はどういう人間になりたいのだろうか?というのを常に考えて、今を充実させていかなければいけない。それは30年生きてきて、なんとなくわかったことです。
今が幸せでないと、いつまでも「あのとき、ああすれば」という後悔が残ってしまう。だけど「あんな辛い過去があったから今の自分がいる」と思える今を作ることで、過去の価値は変わってきますもんね。
しかも“今”って止まってる時間ではなくて、次の未来に進んでいるものだから、その時々でどうなりたいかを考えないと、完全に未来を見失ってしまうんですよ。そうなったら人間楽しくないから、楽しむためにも!

ちなみに和田さんご自身は、どういう人間になっていきたいと考えていますか?
自分が今後なりたい人間像を考えたときに、芸能人という見られ方をされたくないなと思ったんです。普通に、ちゃんと美術や音楽に向き合う人間として成長したい。そのためにアイドルだとか芸能という色からは脱していきたくて、事務所を辞めて1人でやっていくことにしたんです。
それを自分では“脱芸能人”と呼んでいて(笑)、今、少しずつ芸能の仕事からはフェードアウトしてるんですよ。今後は音楽と美術に専念したくて、より自分が自然体でいられる環境を手に入れるために、独立してフリーランスになったんですね。
金銭的な管理も、基本的にはご自分で?
はい。やっぱりお金の流れも自分でわかった上で仕事をしたかったんです。 会社に所属していると自分がいくらで働いているのか見えないんですけど、お金のことを知るのって社会人の基本だし、もう30代にもなるのに知らなくていいのか?って、すごく不安だったんですよ。
とはいえ今も、確定申告を税理士さんにお願いする期限が過ぎちゃって、頑張って自分で領収書をまとめているという最悪の状況で(笑)。今年こそはちゃんと月に一回まとめる!って心に決めました。(取材は2月後半)
美術といえば、2022年には美術の勉強のためにフランスにも留学されていたとか。
はい。私が最初に好きになったのが、エドゥアール・マネというフランス出身の画家だったんです。そこから、ずっとフランスの美術を見るようになって、フランス語も勉強するようになったんですね。そもそも日本で紹介されるのは、フランス、イタリア、オランダの美術が強いので、それは自然な流れだったのかなと。
バンドで歌っていらっしゃるフランス語の発音も、とても綺麗ですもんね。昨年には“アイドル”から“詩と言葉のアーティスト”に肩書きも変えられたそうですが、この呼称に込められた思いとは?
いろんな経験をしたので、必要とされるところで自分の言葉を出していけばいいかなと。一方で、自分が楽しくてとか、1つ見出したい形で書いているのはバンドで歌っている詞なので、音と言葉の重なりの中での詩というものも追求したいなと思っているんです。
音楽は“表現”としてやっているので、自分の趣味趣向がかなり凝縮されているんですけど、そこに好きな人たちが集まってきてくれていることが楽しいし、大切にしたいですね。
LOLOETでは、かなりアブストラクトだったり実験的な音楽もされていて、ご自身のクリエイティビティを自由に発揮しつつ、求められたところでも発信していくというスタンスは、非常に上手いバランスですよね。
求められたことをやるというのも、自分ができることの1つだし、そこで書いたものが今回のように本になれば、それがバンドの方にも活きるかもしれないので、どちらも切り離せないものかなと思っているんです。ただ、自分で文書を作るということに軸を置いて、そこだけブレなければいいかなって。
では、今後書いてみたいこと、出してみたい本がどんなものなのか、教えてもらえますか?
私、何をするにも怒りが原動力になるタイプなんですよ。今回の『アイドルになってよかったと言いたい』にも、今まで生きてきた人生の怒りをマックスに詰め込んだと思ってます。
でも、それだけでは人生つまんないのもわかっているので、いつか60代くらいになったら、今、やっている保護猫活動の記録を楽しく、ポップにまとめてみたいですね。文章を楽しく、ポップに書くっていうのは、歳を重ねないとできないんですよ。どうしても真面目になっちゃうので、その真面目さを手放してポップに、のほほんとした猫日記を綴るのが最大の目標です!

撮影/阪本勇(@sakurasou103)
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