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私の経験を、みんなにシェアしたい。和田彩花『アイドルになってよかったと言いたい』インタビュー

私の経験を、みんなにシェアしたい。和田彩花『アイドルになってよかったと言いたい』インタビュー

2019年にアンジュルムとハロー!プロジェクトを卒業し、現在は“詩と言葉のアーティスト”としてバンド活動も行っている和田彩花さんが、著書『アイドルになってよかったと言いたい』を発表しました。

アイドルはなぜスカートしかはかないのか? どうして女性性を強調した仕草をするのか? 自身が味わってきた苦悩や体験をシェアすることで、アイドル業界のみならず社会全体に問題を投げかける本書は、アイドルとして“日本社会が女性に求める身勝手な理想像”を押しつけられてきた経験のある和田さんだからこそ描けるリアルが詰まっています。

フェミニズム、自己表現、メンタルヘルス、家族、恋愛、労働問題など、多岐にわたる“気づき”にあふれた本書について、そして“アイドル”という存在について語っていただきました。

和田彩花『アイドルになってよかったと言いたい』書影
profile
和田彩花(わだあやか)
1994年生まれ、群馬県出身。2009年に「スマイレージ」(のちに「アンジュルム」へ改名)に加入。2019年、アンジュルムとハロー!プロジェクトを卒業。現在は「詩と言葉のアーティスト」として、バンド・LOLOET(ロロエ)での音楽活動のほか、「女性のあり方=ジェンダー」や美術に関する情報発信を積極的に行っている。特に好きな画家はエドゥアール・マネ。
https://www.instagram.com/ayaka.wada.official/
https://x.com/ayakawada
https://www.youtube.com/c/wadaayaka
https://www.loloet.com/

求められるものに応えていくことの怖さ

和田彩花

本書は『QJweb』での連載をまとめられたものだそうですね。

はい。ただ、この連載が始まる前の2019年にも『Quick Japan』本誌の方で連載をしていまして、本来はそちらを1冊にまとめる予定だったんですよ。それが書籍化の最中に作業が中断してしまい、その後もう一度『QJWeb』で連載して本にしませんか?というお話をいただいたんです。

最初は「令和のアイドル論を書いてほしい」というテーマをいただいて、そこから、じゃあ自分が書けるものは何だろう?という感じで書き始めたという経緯ですね。

今、“令和のアイドル論”というワードが出てきましたが、アンジュルムを卒業したあとも“アイドル”を名乗り続けていた和田さんが思うアイドルって、そもそもどんなものなんでしょう?

難しい……! それは、この本を書きながらもすごく考えていたことですね。アイドルって本当にいろんな側面があるんですが、わかりやすく何のプロなんだろう?って考えると、歌って踊って表現するプロでもあり、ファンやグループのために夢を追いかけるプロでもあるんですよ。

だから、歌やダンスといったパフォーマンスを消費されている部分もあれば、広く人間性を消費されているという部分もある。それがアイドルの漠然としたイメージであり、実際やっていることなのかなというのは思っています。

ただ、人間性をエンタメとして提供するってとても難しいことですし、ある意味、ファンに求められる像と素の自分自身の乖離に折り合いをつけることのプロであったりもするんでしょうか?

もちろん乖離はあると思います。ただ、アイドルって十代の若い頃から活動を始めるケースが多いんですよ。なので、自分のやりたいことや理想だったりを自覚する前に、まず、ファンや会社に求められるものに応えていくことが第一になってしまうというのは、自分の経験も踏まえて感じています。

和田彩花

曲の振り付けを覚えないといけない、握手会をやらないといけない、といった物理的なスケジュールや課題にも追われていきますし、イメージ的な部分でも、どんな髪型や服装をしたら目の前のファンに喜んでもらえるのか?といったところを追い求めがちになってしまう。

つまり、簡単に自分というものを手放してしまえるんですね。だから、本当に自分が好きだと自覚してアイドル活動を続けられている人って、どれぐらいいるのかな?って正直思ったりもします。

もはや、自分がやりたくてアイドルをやっているのかも、わからなくなってしまうと。

そう。わからない。そもそも幼い頃からアイドルをしていると、誰に言われなくても「これはOK、これはダメ」っていうアイドル的な価値基準が身についてしまうんです。

例えば私の場合、フランス語やダンスのレッスンに行きたかったけれど、事務所の大人に聞いたら絶対に「ダメ」と言われるのがわかっていたから、内緒で行っていたんですね。自分の向上心を否定されることが、すごく嫌だったから。

そんなふうに、聞いてもいないのに「コレはいい、アレはダメ」という思いこみが生まれてしまうので、大人になって自我が芽生えても、自分がどういう気持ちで何をしたいのかをスンナリ言えない人間になってしまう人も多いんですよ。

アイドルがセカンドキャリアを築くことの難しさって、きっと、そういうところからも来ているんです。要は、自分の本当の気持ちだったり、自分のキャリアや人生をどうしたいのか?ということよりも、自分は何を求められてるんだろう?というところに目が向きがちになってしまう。主体的に人生を歩むということが難しくなってしまうんです。

どちらも否定したくない、曖昧な場所に気持ちがあった

和田彩花

もしかして本書って、後輩アイドルに向けての、そういった警鐘的な意味合いもありますか?

“誰に向けて”というのは決めてないんですよね。ファンに向けて書いたともあんまり思ってないですし、漠然と社会に向けているイメージの方が強いです。

これまで私が自分の人生を取り戻そうとして戦ってきた相手って、会社の人でもあったけれど、その人自身が悪いんじゃなく、その人が身につけた社会の習慣が悪いんですよ。

だから、私はその人が身につけた習慣自体を疑ったり、そこに対して闘ってきたんだなと認識をしているので、おそらく漠然と社会に向けて書いてます。

今“自分の人生を取り戻すための闘い”とおっしゃいましたが、本書のタイトルは『アイドルになってよかったと言いたい』というタイトルで、決してアイドル時代を否定するものではないですよね。このタイトルって、すぐに出てきたものでした?

はい。「連載のタイトルをつけましょう」ってなったときに、割とすんなり出てきて、そのまま「いいですね!」って進んでいった感じです。

連載を始めた頃は、今よりも自分の状況が良くなくて、精神状態もあまり安定してなかったんですね。当時は「なんでアイドルになったんだろう?」とか「なんであのときやめなかったんだろう?」とかって、アイドルに対してネガティブなことしか考えられなかったんです。ただ、その一方で私はメンバー仲のいいグループにいたので、 仲間のことは大好きだったし、グループ自体はすごく楽しかったんですよ。

仲間との関係で得たものもすごく大きくて、良い思い出もたくさんあったから、そこは否定したくなかった。だけど、アイドルをやっていた当時の苦しい経験とか辛い思い出に、まだ自分は支配されているから、それをどうにか乗り越えなくちゃ……っていう状況のときに付けたタイトルがコレなんです。

和田彩花

だから、やっぱり希望を見出したかったんでしょうね。アイドルになって良かったとも素直に言えないけれど、アイドルになってダメだったとも言えない。どっちも否定したくなかったんです。そこは曖昧でもいいかなと思ったし、曖昧な場所に私の気持ちがあったってことなんでしょうね。

なるほど。楽しい思い出もたくさんあるけれど、だからといって辛い記憶がすべてチャラになるわけでもないと。

それはそうですね。アイドルを辞めるとき、だいたい「楽しかった」とか「感謝してる」とかっていう言葉で終わる子が多いですけど、同時に「でも、あれは嫌だった」とか「あんなのおかしいよね」っていう気持ちもあって当然だと思うんです。

だから、今は当時よりもポジティブだけど、絶対に「アイドルになって良かった」とは開き直りたくない。そうすると問題が見えなくなってきちゃうから、それだけは絶対に言わないようにしてます。

ちなみに、当時よりポジティブになれた一番の理由って何なんでしょう?

この本を書いて、消化できたことが一番大きいかな。あとは、本の中にも書いてますけど、私、精神疾患の治療の一環でカウンセリングもずっと受けているので、その2つですね。本を書くことが一番の治療になって、アイドルだった自分とアイドルとしての経験を、ようやく受け入れることができたというか。

カウンセリングで大事なのって、状況の整理なんですよ。なので、書いているうちに「このときの自分って嫌な気持ちMAXだったけど、こういう楽しいこともあったな」と思い出せたり、過去の自分がどういった状況に置かれていて、その中で誰がどんな発言をして、それに自分はどう感じ、どう反応をして、結果的にどうなったのか?という状況の整理ができたのが、一番大きかったかもしれないです。

自分の感情に巻き込まれているだけだと苦しいしかないけれど、状況が見えてきたら原因が自分以外にもあることが見えてきて、誰のせいでもないんだと自分から問題を手放すこともできる。だから救われたんでしょうね。